WEB版けやき通信第18号「遺産分割の事例紹介③ ~換価分割の活用~」

遺産分割の事例紹介③ ~換価分割の活用~

1.遺産分割の事例紹介
 今月号では、遺産分割の事例紹介③として「換価分割の活用」について説明します。

2.具体的事例
 ①被相続人:(令和5年5月25日死亡)。
 ②相続人:長男・長女の2名。
 ③遺産:自宅不動産と預貯金(300万円)のみ。

3.遺産分割についての相続人の考え
 〇共通する部分
  相続人は2人なので、預貯金は150万円ずつ取得することで構わない。
 〇相続人で相違する部分
  お互い母と同居しているわけでなく、空家となる実家の所有権を相続しても固定資産税や管
 理・修繕など負担が重いため、お互い相続したくないと考えている。

4.問題の所在
 本事例のように、相続が発生することで実家が空家となることがあります。
 しかし、所有者は空家であってもその建物を適切に管理等する義務があり、固定資産税も負担しなければなりません。
 このように、所有者は所有者として様々な負担を負うため、空家となる実家を「相続したくない」と考えている方もいます。
 一方、相続は「相続放棄」しない限り亡くなった方の財産全部を承継するので、「この財産は欲しいけど、あの財産はいらない。」といった、相続財産の一部のみの相続は認められていません。

5.本事例の検討
(1)現物分割
 長男・長女のどちらが取得するかの押し付け合いとなり、話し合いが平行線をたどる可能性が高いでしょう。

(2)代償分割
 長男が自宅を取得し、代わりに長女に相応の金銭を支払って解決を試みようにも、相続後の固定資産税の負担や空家となる実家の管理・修繕を考えると長男の負担が重く、これも話し合いが平行線をたどる可能性が高いでしょう。また、そもそも代償金を用意できるかという問題もあります。

(3)換価分割
 固定資産税の負担や空家の管理・修繕義務は、不動産の所有者が負います。そうであれば、思い切って自宅を売却し、必要経費を支払った残りの代金を相続人で話し合って分配すれば、所有者としての責任を押し付け合うこともありません。また、不動産が金銭に変わることで分配方法の自由度が高まりますので、円滑に話し合いが進むことが期待できます。

6.まとめ
 自分が生まれ育った実家を早々に売却することに抵抗感がある相続人も多いと思います。
 一方、上記で検討しましたように、現物分割や代償分割では解決が図れない課題もあるため、無理して現物分割や代償分割で相続しても、その後の所有者としての責任で後悔することがあります。そのため、そうならないよう「換価分割」を検討いただければと思います。
 また、親が予め「実家は売っても良いんだよ。」と伝えておくのも、円滑な相続を考えた時に有効かもしれません。

7.紙面版けやき通信
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